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「果たしてこれを『研究の成果』と言う言葉で片付けてしまって良いのでしょうか。この月下美人は人体を苗床としてしか育たない。しかもそれは女性か子供に限るようです。男性では肉が固すぎるのか、あまり育つ事はありませんでした」
ほらこんな風にと、朔は見せつけるようにして左腕の袖をめくり、いつも付けているサポーターを引き抜いた。
そこからひょこんと頭をもたげたのは、こぢんまりとした月下美人の花。
「こんな僕でさえ、深夜になると浸食してくる根の激痛に苛まれると言うのに。なのに花純は……彼女はこれまで、どれ程の地獄を味わってきた事か……!」
嗚咽まじりの悲痛な声が、仄暗い温室内を迸る。
埋め込めば最後。恐ろしいスピードで人体に根付き、もう決して引き抜く事はかなわない。
朔は二人目の被験者となっていた。
花純を助ける研究と称し、あろうことかその父親である教授によって罠に嵌められてしまったのだ。
それは自分から全てを奪おうとする男に対しての、嫉妬以外の何物でも無かったのだろう。
「ねえ、笹原さん。まだこんな植物を欲しいとお思いですか? 誰かを犠牲にするしか育てる方法がない、この残酷な花を」
「え!? い、いや……」
突然に名前を出され、笹原の肩がびくりと震える。
そんな笹原を一瞥すると、朔は一冊のファイルを投げ出すように教授へと差し出した。
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