突然の

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それは、13年前。 コンビニで軟骨を取り合ったのがきっかけで話をするようになった、なんて言うと絶対に笑われる出会いだった。 お互い軟骨を必ずと言って良いほど購入していて、私は当時夫の事を〝軟骨さん〝と呼んでいた程だ。 きっと私も夫や店員さんから、そう呼ばれていただろうけれど。 その日は軟骨が最後の一つで、同時に手を伸ばし私が譲ってあげたら、次に会った時軟骨とアイスを奢ってくれたんだったっけな。 あの頃を思い出して胸の奥がキュッと熱くなる。 大きく膨らんだ買い物袋を二人で持ち、ガサリと言わせながらゆっくり家路を歩いた。 「軟骨懐かしいねぇ」 「久しぶりに買ったな」 夫との間に子供達が歩いていないのが不思議だ。 「ねぇ宏樹」 「ん?」 私は左手に持っていた荷物を右手に持ち替える。 それに気がついた夫は、同じく両手に持っていた荷物を左手にまとめて私の差し出した手を握った。 「歩美の袋も持とうか?」 「お菓子ばっかだから平気」 他人から恋人になり、夫婦になって。 そして親になって夫婦というより子育ての戦友のようになっていたけれど。 すっかり見慣れている筈の横顔をじっと見つめる。 (そう、この横顔が好きにっていうか気になるようになった最初なの) 軟骨を好きになったのは、コンビニで気になる人がよく買っていたのを見て気になって購入してみたらハマっただけ。 確かに行くたび買っていたけれど、あの人と少しだけでも会えないかななんて思って、特に欲しい物がなくても通っていたんだよ、なんて知ったら。 (この人どんな顔するかな) 「あのさ、初めて話した日覚えてる?」 「覚えてるってさっき言ったのに酔ってるなやっぱ」 「あ、そうだった!それでね」 自分でも酔ってるなと自覚しつつ話そうとした時、夫が少し恥ずかしそうに話し始めた。 「実はさ、あの日歩美が軟骨手にした時別にそんな欲しい訳じゃなかったんだ」 「え?」 「ずっとその子と話してみたくって、キッカケ欲しさにわざと俺も手にしてみたって言ったら笑う?」 イタズラが成功した時の息子そっくりの顔をして、宏樹が笑った。 つられて私も笑ってしまったじゃないか。 なんてことだ、先に驚かされてしまった! 夫婦になってもまだまだ知らない事ばかり。 「あのね、私はね」 さぁどんな顔するかな。 手を強く握り返しながら、私は口を開いた。 終わり
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