突然の

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とりあえずとコーヒーを淹れて、夫とソファに座り溜め込んでいた録画を消化しようとしてみたが。 「……静かだね」 「ははっ、あいつらうるさいからな」 今までだって大人しかいない時間はあった。 でも丸一日子供達がいないなんて、何年ぶり? 「お姉ちゃん産んでから初めてかぁ。え、もう9年ぶりぐらい?」 改めて考えてみたら、嵐のような育児で過ぎ去っていた年数にびっくりだ。 テレビを流していてもどこか寂しい。 お互い仕事とパートがあり、もし子供がいなかったらあれしたいこれしたいと夢を語るように色々言ってたのに。 いざそんな時間ができたというのに、掃除や家事で結局時間が過ぎ去っていく。 「あ~~なんだろ落ち着かないな!」 夫がスマホをチェックしては、頭を掻いていた。 わかる。私も夫の実家から連絡はないかといつもよりスマホを気にしてしまっている。 互いにソワソワしているのに気が付いて、顔を見合わせて苦笑した。 「とりあえず晩御飯どうしようね」 もう夕方といっていい時間。 子供達がいないなら、適当に食べてしまおうかなと思っていた。 だが、夫がいきなり立ち上がった。「飲みに行こう!」 「えっ!?」 「お酒のあるお店に行っても、 お互いどちらかは車運転しないとだったし、子供もいるしで量も飲めなかったし。いい機会じゃん」 ポカンと掃除機を持ったまま、私は夫を見つめた。 頭の中に、まったく二人で飲みに行くという選択肢が出てこなかった事にびっくりしていたのだ。 「そ、そうか、二人でお酒飲んでもいいんだもんね?」 「そうだよ!遅くまで飲んで帰り歩いてもいいし。よく昔してたみたいなさ」 「わぁ!独身の時みたい!自由!」 「だろ!?」 きっと他人から見たら、そんな事でと失笑されそうな小さな事だけど。 すっかり子供達が中心になった生活パターンでは、できなかった事。 「着替えてくる!」 「俺も!」 どうしよう、何を着ようかな? 少しだけおしゃれをして、ほんの少しだけお化粧をしっかりと。 いつもの息子を追いかける為の靴ではなく、低いけれどヒールのある靴をはいて。 「なんだかデート前みたい」 「デートだろ?」 ほら、と玄関で靴を履くために屈んでいた私に手を差し伸べてくれた夫の手を握りながら、久しぶりにしっかり顔を見た気がすると思った。
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