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すっかり夜は更けているけれど、まだ蝉の声がしている。
「美味しかったぁ~~!」
「来てよかった!子供いたらここは無理だったな」
店の前で私達はご機嫌だった。
徒歩圏内にある創作居酒屋。
一度行ってみたかったけれど、どう見ても子供向けメニューはなさそうな店。
思い切って来てみれば大当たりで、久しぶりにかなり飲んでしまった。
飲みながら幼少期の話になり、まだまだ知らない話がお互い沢山あって話はつきなかった楽しい時間。
「あ~~酔っぱらったよ!ね!」
「いや、俺はまだ大丈夫」
「うっそお父さんあんなに飲んだのに」
昔からお酒に強い夫は、かなり飲んだのに少しふわふわと歩く私と違ってしっかりした足取りだった。
(結婚しても子供ができる前は、たまにこうして飲んで帰ったなぁ)
思い出して思わず口角が上がる。
立ち止まった私に夫が振り返った。
「……どうした?」
出会って13年、結婚して12年、最初の子供が生まれて9年と少し。
街灯に照らされている夫の顔が、暗いせいかあの頃とあまり変わっていないように見えてドキリとしたりして。
「なにしてんだ。ほら」
私の手を強く握って再び歩き始める
「えへへ~~」
嬉しくて思わず笑ってしまった。
なんだこれは。なんだか少し照れくさい。
見れば夫も笑っている。
初めて手を繋いだ日はもう忘れてしまったけれど、胸がドキドキと温かくなるこの感じはきっとあまり変わらなかった筈。
なんてね。お酒のせいだったりして。
夫も同じ気持ちだったらいいな。
「ねぇ、少しゆっくり歩こうよ。家に着くのもったいない」
「俺も思ってた。あ、コンビニ寄ってくか」
「いいね」
コンビニへ寄れば10分ぐらい遠回りになる。
まるで恋人だった頃のように、時折お互い強く手を握り返しながら夏の夜を歩いた。
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