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峯田が退き、蚊鳴屋が退き、結局逃げそびれた浮葉が一番下になってしまった。二人が退いた後で落ちてきた人を見る。冬だというのに、コートを着ておらず、山を転がって来た衝撃のためか、小さな葉っぱや土で汚れている。峯田が頬を軽くたたくと、顔をゆがめて目を開けた。覗き込んだ峯田の顔を見て、驚いたように固まっている。灰色の瞳に、白い肌。髪は黒いが、日本人とは顔立ちが違う。しかし西洋人というよりは、どことなく機械的な……アンドロイドのような印象を受けた。やわらかそうな頬があどけなく、二十六歳の峯田や蚊鳴屋よりも年下に見えた。
「あ、よかった。どこか痛いところはない?」
「……」
彼は灰色の瞳をゆっくりと動かした。蚊鳴屋と、峯田と、それぞれ目が合う。唇をすこし震わせたが、言葉は出てこなかった。
「言葉が分からないんじゃないか?」
浮葉が言うので、峯田がいくつかの言葉で話しかける。
「ぼんじゅーる、こんにちはー、ハロー、もーい」
「あっ、あ……。言ってることは、わかります……」
男が弱々しく言った。
「よかった。怪我はなさそう? 立てる?」
峯田は出来るだけ優しく言って手を差し出した。男は恐る恐るその手に自分の手をのばしかける。
「どうして上から落ちてきたの?」
尋ねられて、男はまた固まった。彼の様子が様子であったので、誰も鳥居が壊れたことを言い出せない。浮葉としても、驚きの方が大きくて怒る気になれないが。
「……浮葉!」
男は浮葉の美しい顔を見ると、峯田の手を無視して立ち上がった。
そして、
「返してくれ……!」
必死の形相で彼の両肩を掴んだ。
「何を?」
浮葉は驚きながらも冷静に答えた。
訊ねられ、男は一瞬固まったあとで、
「……何を、でしたっけ?」
と言ってきょとんとした。
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