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峯田は柔らかく笑うと、こっちだよ、と言って歩き出した。
「ただいまー」
数分歩いた後で、峯田は本屋の前で立ち止まった。エプロンをつけた蚊鳴屋が、店の前を掃除している。
「なんだ、帰ってきたのか」
「ほあっ」
峯田は大げさに驚いて情けない顔をした。
「帰ってきちゃだめだったの?」
「だめっていうか……」
蚊鳴屋が言いよどむ。
「いつまでもここに住んでるの、麦くんが嫌がらないのかな、と思って」
「どうだろうね? でも、麦んちに二人で住むには狭いし、すぐに引っ越すにはお互いお金の無駄だしなあ。そりゃあ、いつかはここを出て行くとおもうよ。でもぼくは帯刀に最初の赤ちゃんが生まれるまではここにいるつもり」
「なんでだ」
蚊鳴屋は笑いながらつっこむ。彼らのいつものやりとりなのだろうか。彼がふと、その後ろにいるサンタに気づいた。
「あれ。どうも。あれからどうなりました?」
「どっちにしろ、しばらくサンタは休業だし、昨日はあれからサンタさんの服を買いに行ったよ。そうそう、サンタさん、ここで働きたいんだって」
道すがら峯田と話したことを、答えようとしたら峯田が全部話してしまった。
「浮葉さんとこで部屋と仕事用意してもらえなかったんですか?」
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