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まだ開店前なのか、店内は電気が消えていて薄暗い。古本屋らしく、店内には本が多い。というか本しかない。鼻にとどく、少し土っぽい、くすぐったくなるようなにおいが紙のにおいだとわかった。
「今日ぼく、やることある?」
峯田が階段を下りてきた。
「いや、休みの間、とくに注文も入ってなかったし、用事がなかったら遊んできていいぞ」
「休みの間遊び疲れちゃったよ。じゃあ家事でもしようかな」
「麦くんは帰ってきたのか?」
「うん、今日の夕方帰ってくるって」
「迎えに行ってやらないのか」
「関空まで? 遠いよ」
「家で待っててやるとか」
「……」
峯田と蚊鳴屋が顔を見合わせた。
峯田と、彼の年下の恋人である浜麦が思いを通じ合わせ一夜を過ごしたクリスマスから、まだ一週間と少ししか経っていない。さぞ離れがたかったと思っていたのだが。
「まあ、そりゃあ早く会いたいよ。けど、なんていうか」
峯田はしばらく考えて、
「麦の思い通りになるのも、ちょっと癪っていうか」
と言った。
「なんだそれ」
蚊鳴屋は笑い飛ばす。
「さて、サンタさんは、今日から働けますか?」
「はい!」
「といっても、今日はそんなに仕事もなくて。お客さんもあんまり来ないと思うからざっと仕事の説明かな。峯田、じゃあ使ってないエプロン探してきてくれ。いつもの場所にあると思うけど」
「はーい」
*
十二時を過ぎると、蚊鳴屋はいったん店の入口に鍵をかけた。
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