2 サンタのするサンタクロース以外の仕事

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 午後、蚊鳴屋が事務作業のために仕事部屋と呼ばれる狭い部屋にこもったので、店には峯田とサンタが立った。ちらほらと客が入ってきて、ちらほらと本が売れる。常連らしき客と、峯田は正月の挨拶を交わしている。 「サンタさん働く必要あるの? めったにない休暇なんでしょ。ゆっくり休めばいいのに」 「でも有給ってわけじゃないので、収入がないんです。……貯金が無いわけじゃないんですが、いつまでこの生活が続くかわからないし……。俺も、今朝までは、何も今日から働くつもりはなかったんですけど、でも、机の上にお金が置いてあるのを見て、こんなふうに『面倒をみられる自分』がなんだかすごく情けなくなって……。でも、働ける場所に心当たりもなかったので、とりあえずここに来たんです。こちらですぐに働かせてもらえるのは、すこし予想外でしたが」  なるほどね、と言って峯田は少し背の高いサンタを上目遣いに見た。  プロレスラー、らしくはない。どちらかというと間者のような。探るような目つきだ。サンタはそれもそうか、と思う。いきなり空から落ちてきて、それが偶然知り合いのいる場所で、そしてそのままその家で暮らすことになるなんて。自分でも、上手く話が進みすぎている、と思う。これで、最初に口走ってしまった「返してくれ」の意味さえ思い出していれば、まだ不信感は軽減されるかもしれない。自分でももどかしくは思っているのだが。 *     
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