1 サンタクロースが降ってくる町

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 どうして自分の中にそんなものが入っているのかはよくわからないが、彼がその神を大切にして、毎年きちんとその神が祀られているやしろを詣でているのは、単純に機嫌を損ねて自分に不利益がそそぐのが怖いからだった。人はもちろん、生きるものは何でも、その機嫌をそこねるとろくなことにならない、ということは幼いころ飼い犬に手を噛まれた時に学んだ。たしかそのときは、餌を食べている犬を撫でようと思って手を出したら、餌を取られると思った彼に噛まれてしまったのだった。  今年の正月は曜日の並びが悪く、浮葉は4日から仕事始めだった。今年は撮りためたアニメも消化出来ないまま、最後の正月休みに蚊鳴屋帯刀と、峯田ペペと一緒に大津に向かっている。全員免許は持っているが、蚊鳴屋が運転をして、残りの二人はだらだらと缶ビールを開けている。いつも本を乗せて運んでいるハイエースなので、普段は飲食禁止だが、今日は特別に許しを得ている。  蚊鳴屋は、子どものころから付き合いがある幼なじみで、実家の古本屋をついでいる自由業なので、正月休みは好きなだけ取っている。峯田ペペは浮葉が所属している組織が主催している妖怪プロレスこと冥闇会の選手である。冥闇会のシーズンは四月から十二月であるので、オフシーズンである現在、彼は毎日休みなので、明日から仕事である浮葉と違って二人はのんきなものだ。 「おい、峯田。そんなに飲むと調子が崩れるぞ」  いくつめかわからない缶ビールを開ける音がして、助手席の浮葉は後部座席の峯田を振り返った。浮葉は峯田のスケジュールを管理するマネージャである。トレーニングについては専門外とはいえ、正月の油断がのちのちに影響が出る可能性はいつでもある。     
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