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蚊鳴屋と峯田が浮葉を見た。どうあっても、この落ちてきたおとこは浮葉の名前を呼んだのだから、知り合いのはず。しかし浮葉は、マフラーで鼻元まで隠して仏頂面をしている。自分たちは慣れているから忘れているが、そういえば彼は極端な人嫌い、人見知りだった。そしてこれは人見知っている図である。
「知り合いじゃないの?」
峯田が相互を見ながら尋ねる。
浮葉はしぶしぶと言った様子で
「……あのときのサンタか」
と言った。
「サンタ? って、サンタクロース?」
峯田がおとこを見た。彼は若くて、スマートな美形だ。サンタというとイメージする、恰幅の良い赤い服を着たサンタクロースのイメージではない。
「ええ、一応……」
「っていうか、どこから来たの? 浮葉に会いにくるにしても、古墳を転がってくることはないと思うけど……」
峯田が指摘するが、サンタは頭を打ったショックか、ええと、と言ってはっきりと答えない。
「あれじゃないか?」
蚊鳴屋がそう言って上を指した。透き通るような青い空を全員で見上げると、何か、鳥にしては大きく動き方も違い、飛行機にしては小さい何かが遠ざかっていく。
「何、あれ?」
「はっきりと見たわけじゃないけど、あなたがサンタなら……」
ソリだろうな、と蚊鳴屋は言った。去っていくあの物体が、何頭かのトナカイが空を駆けていく動き、と言われればそんなような気もする。実際に見たことはないはずなのに。
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