始まりの日

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 ホモサピエンスとは、知恵ある人の意である。  かわいいなあと思う。自分が知恵があるって名乗ってるって、要するにお子様なんだもん。大人だったら、私は愚か者ですって言うでしょ?  だからホモサピエンスは、お子様。若くて未来があって、これからどんな大人の種族に成長していくのかしらって、みんなワクワクしながら毎日毎日見つめてる。  宇宙の片隅の小さな銀河の外れにある、ごく平凡な太陽と惑星たち。  ただ一つ平凡でなかったのは、その惑星の一つに異常に大きな衛星があること。  その衛星を月、と呼ぶ。  月。  いいなあ、月に行きたい。って、ムリだよね。  せめてホモサピエンスに生まれ変わって、月を見つめていたい。  わたしはお願いごとをしながら眠りについた。 「はい、お願いごとをいただきました。さっそくホモサピエンスに生まれ変わる手続きに移行いたします」  チャリーン。コインが落ちる音とともに、どこからか声が聞こえてきた。  わたしは目を開けた。  あれ? 何ここ、真っ暗で何も見えない。  わたしは一人で、寝間着姿のまま立っていた。  わたしはしばらく考えた末に結論を出した。  そうか! 夢の世界に来ちゃったんだ。お願いごとをしながら眠っちゃったから、一生に一度だけ願いをかなえてくれるサンタの国に来たんだ。  わたしは、びっくりしたけれど、冷静でもあった。  サンタの国に行った話は山ほど聞いていたし、みんなお願いごとをかなえてもらって満足していたから。だから、真っ暗でも、ぜんぜん怖くなかった。 「ええと、手続きなんですが、スタンダードコースとプレミアムコースと、どちらにされますか?」  声が尋ねてくるので、わたしも質問を返した。 「それって料金が違うのですか?」 「いえ、両方とも無料です」 「じゃあ、プレミアムでお願いします」 「はい、プレミアムお一人様入ります」  チャリーン。コインの落ちる音。  タダイマ、マッチングチュウ… 「候補が見つかりました。ホモサピエンスの女性です。名前は…」 「マリエ! 名前はマリエです!」  わたしは慌てて叫んだ。だって、この名前以外に呼ばれたい名前はないんだもん。 「名前をマリエに修正しました。地球観光をお楽しみ下さい」
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