始まりの日

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 次の瞬間、まぶしい光が差してきた。暗闇に慣れていたわたしは、目をぱしぱしさせた。  行かなくちゃ、あの光の方向に。  わたしは、ゆっくりと歩き始めた。  それから何が起こったか、わたしは、よく覚えていない。  ホモサピエンスの赤ちゃんとして生まれ、育ち、大人になって結婚し、子どもが生まれ、と、目まぐるしく記憶が流れ込んでくる。  はっ、と気がつくと、わたしはホモサピエンスの家の中で、1人で立っていた。  ホモサピ・・・めんどくさいので「人間」としておこう。  人間の家の中って、こんな風なんだ、と、わたしは周りを見まわした。 【重要】カバンの中を見ること。  何か重要マークが出ているので、黒いカバンを開けてみると、個人カードが入っていた。  九条真理絵   写真がついている。なんか普通って感じ。  そうか、わたしって、ごく普通の女の子に生まれたんだ。  ちょっと美少女とかに生まれ変わって、王子さまと大恋愛なんかしたりとかは・・・ないない。  無料のお願いごとだもん。プレミアムだからって、そこまで上流階級の人とお近づきなんてゼッタイない。  個人カードを戻して、わたしは、ため息をついた。えっと、これから何するんだったっけ。  そうだ、たしか月を見に来たんだ。わたしは窓を開けて空を見上げた。  灰色の空。風がピューッと吹き込んで来た。さむい。わたしは窓を閉めた。  わたしは月を見るのはあきらめた。  そろそろ、元の世界に帰ろうかな。  かけているメガネの隅にログアウトの表示がある。わたしは、ログアウトの表示に焦点を合わせ、ぱしぱしっとまばたきした。  何も起こらなかった。  あれ?
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