奏音

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 それから嘉人の指示通りに席に座り、パソコンからプレゼン用の資料を取り出した。  この程度の仕事なら以前やっていたし、楽勝だ。 「……すみませんでした」  企画会議が終わった後、私は木川部長に頭を下げていた。  嘉人の作った資料は完璧だった。  だが、その後のディスカッションで私は何も意見が言えなかったのだ。 「珍しいねぇ。いつもはバンバン意見いう佐伯が。やっぱ奥さんと喧嘩した?」 「大丈夫です。ちょっと頭冷やしてきます」 「あんまり気にするなよ。調子悪い時なんて誰にでもあるからな」  私は苦笑するとパントリーへコーヒーを入れに行った。  まぁ、私は仕事をしていないのだから出来ないのは当然なのだが、普段からもっと仕事の話を聞いていればよかった。  これで嘉人の評価が下がったらどうしよう……そう落ち込んでいると、パントリーへ女性社員が入ってきた。 「あ、佐伯さんだ!」  ええと、この人は確か派遣社員の三好(みよし)さんだ。まだいたのか。 「どうも」  ちらりと一瞥し、視線を外すと真横まで三好さんが近寄ってきた。 「今夜どうですか?」  コーヒーを吹き出しそうになった。  は? 何?  嘉人は三好さんと何かあるの?  いや、もうどうでもいいじゃん。別れるんだし。 「何が?」     
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