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奏音
(久しぶりの満員電車はキツいな)
朝のラッシュ。
一瞬、女性専用車両へ並ぼうとして慌てて場所を変えた。
足場もまともにないほどの混雑に辟易する。
「ちょっと……!」
「え? ……あ、すみません」
前に立っていた女性に睨まれたので手元を見ると鞄が丁度女性の臀部に当たっていた。
仕方なく鞄を胸の位置まで引き上げて抱き締める形で持った。男性は大変だ。
雪崩るようにホームに降り、会社を目指す。
エントランスにつく頃にはすでに私の体力はゼロに近かった。
「よぉ、佐伯!」
IDカードを改札に通したところで後ろから知った声がした。
振り向くと、私が働いていた頃係長だった木川さんがにこにこと立っていた。
今は確か部長だったか。
「おはようございます、木川部長」
「朝から疲れてんなー。また奥さんとやり合ったか?」
む。
嘉人のやつ、私への不満を晒しているのか。
「いえ。満員電車で疲れただけですよ」
「確かにな。あ、今日のプレゼンの資料は出来てるか?」
「大丈夫です」
「いつも残業してくれてたもんな。また飲みに行こう」
最近帰りが遅かったのは、ただ飲んでいたわけじゃなかったのか。
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