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この会社の総務部は、三年前に建てられたばかりの、真新しい本社ビルのワンフロアを占拠している。総務課、庶務課、顧客管理課、顧客サービス課、システム課、制作課などの、業務支援を主とする、バラエティに富んだ巨大な括りの部である。
上に立つ新井も含めて、部内の社員はフラットな関係で、それをそのまま形にしてしまったような開放的なオフィスでは、課という枠を超えた横断的な仕事がされている。
有紗はフロアのいちばん端にある、システム課に目を向けた。仕切り代わりに置かれている観葉植物の向こう側で、ちょうど坂巻が席を立ったところだった。
(少し話が出来るかもしれない)
このタイミングで総務部に下りてきたことに、心の中で感謝していると、顧客管理課のデスクにかけていたひとりの女性が、有紗に優しい笑顔を向けてきた。佐倉華美だ。
「綿貫さん、午前着の人事書類取りにきたの?」
容姿の可憐さを決して裏切らない、涼やかで落ち着いた声だ。仕事に対するひたむきな姿勢を買われ、華美は半年前、新井に引き抜かれて総務部に異動してきた。
きめ細やかな対応は人事部内でも評価が高く、若手女性社員たちの憧れの先輩だ。有紗もまた、華美のようになれたらと夢見る一人ではあったが、最近は少し気になる噂を聞いてしまい、複雑だ。
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