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細かな技が凝縮された完璧な美しさには、人を感動させる力がある。綿貫有紗はふわりとした短い髪を耳にかけ、こだわりと情熱がたくさん詰まった、小さな世界に暫し浸っていた。
「そちらのタルト・オ・ポティロンは季節限定ですが、いかがですか?」
販売員からの誘惑に、有紗はショーケースからぱっと顔を上げた。
「えっと、今日は……」
新商品を見かけて思わず足を止めてしまったが、今日は他の店で焼き菓子を買う予定だ。ここで買う意思がないことを示そうとケースから一歩離れると、いつの間にかすぐ後ろに並んでいたらしい、スーツ姿の女性とぶつかった。
「ちょっと、なに」
「すみませんっ、ごめんなさい」
顔をしかめられて、真っ直ぐに向き合うこともできず、あさっての方向に頭を下げる。これで何も買わなかったら、この人にますます不快な思いをさせるだろう。有紗は勧められたタルトを無駄にふたつ購入し、背中に圧し掛かってくる重い溜め息から一刻も早く逃れようとした。
紙袋を受け取って、首を斜め後ろに向ける。目が合うと少し眉根を寄せたが、販売員に話しかけられると、その女性はすぐに笑顔で注文を伝え始めた。
謝ることで人を嫌な気持ちにさせてしまうのは、どうしてなんだろう。有紗はなんだかとても惨めな気持ちになり、人で賑わうデパ地下をとぼとぼ歩きながら、本来の目的地に向かった。
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