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人事部人事課に所属する有紗の朝は早い。採用関連の手伝いをするには、心も含めた前もっての準備が必要である。
『中途採用者への、保険や年金に関する一通りの説明』という仕事自体はさして難しくもないが、本当の難しさはたった数度来社しただけのその人に、安心して働いてもらえる環境であることが、自然に伝わるような対応をすることだったりする。
『完璧な敬語を駆使した対応よりも、遠い親戚にするような、丁寧ながらも親しみのある対応』
定石を敢えて捨てたような、この部内方針は「仕事に悩んで、どこにも相談できなくなってしまったときの、最後の相談窓口が人事部であるように」という人事部長の考えに基づいて作られたものだ。
この会社で働く全ての人を、あらゆる面で継続的に支えながら、求職者たちに対して、会社の顔という役割を果たす。これが人事部の仕事だ。
彼らに選んでもらえるように、自社の素晴らしさを伝えつつ、土台の安定したところや、人間的な懐の深さを見せなくてはならず、そこが難しい。
有紗は担当した中途採用者を一階の出口まで笑顔で送り届けて、詰めていた息を吐き出した。
話に何か抜けはなかっただろうか。また、明日もこの会社に行きたい、働きたい、と思ってくれただろうか。
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