Adagio

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「こういう自然言語処理自体もけっこう難しいよな。係り受けの統計とか出すんだよね」 「はい。文脈の生成規則に確立値を付与して、構文の解析をします。まあ、ゼロから作らなくても今はオープンソースがありますが」 「僕レベルの数学じゃ厳しいだろうけど興味はあるよ。それにしても、神長くんがこういうゲームアプリも開発してたなんて意外だった。優月くんなら『ああそうか』って思うけど」  神長は少し俯いてくすっと笑った。それからおもむろにコーヒーカップを口元に運ぶ。 「……ちなみに、俺はこれをただのゲームアプリとして作ったわけではありません。Innocenceにはまだ先があります」 「先って?」 「何だと思います?」顔を上げ、神長はまっすぐ坂巻を見つめる。 「……何だろう」坂巻は真剣な表情のまま、宙を睨んだ。  一緒に仕事をするようになり、神長のことを確実に理解し始めてはいるのだが、それはあくまでも人柄の部分であり、思考の理解とはまた別だ。 「たとえば。これは使い道のひとつですけど」前置きして、神長は少しだけ声のトーンを落とした。
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