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「タクシーご一緒しませんか」
そう私に声をかけてきたのは、すっきりとした顔立ちの男だった。私の方に黒い傘を傾けてくれる。年恰好は三十代半ばといったところだろうか。笑うと見える八重歯が魅力的だ。
私たちのやり取りに気づいたタクシーがすぐさま扉を開けた。こういう時、王子様があけてくれたような気持ちになるから不思議だ。本当はおじさんが操作しただけなのに。
http://estar.jp/_novel_editv2?work_id=24840887&chapter_id=240716098#/public
「行先はどちらですか」
そこの角を曲がってすぐのところです。なんて言おうとしたら、視界が翡翠色になった。
「え?」
見上げると、翡翠色の傘が私の頭の上で揺れている。男の傘は跳ねのけられていた。
「あの……」
顎にほくろのあるおばさんだった。その女性は私の腕をサッと引っ張ると
「あら商店街の小奈津ちゃん。家まで送ってあげるから」
そう行って歩き出す。
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