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俺もまだまだ修行が足りないな、とうそぶく男の背中に、怖々と手を伸ばす。どうか、どうか消えてしまいませんように、と。
「……父親の気分じゃなかったの?」
「でも、そのあとでちゃんと否定しただろう。晶みたいな子どもを持った覚えはない、って」
「分かりづらいよ、それ」
思わず吹き出すと、そうだな、と触れた身体越しにくぐもった笑い声が重なる。つめたかった全身が、互いの体温を共有してやわらかくほどけていく。
「──あ、」
いいもの見つけた、といたずらを思い付いた子どもみたいな口調で鳴海がつぶやく。つられて顔を上げると、長い指がまっすぐにすぐそばにある庭木を示していた。
「……宿(やど)り木?」
「そう。この下でだったら、園長も大目に見てくれると思わないか」
何しろ今日はクリスマスだし、と笑ったくちびるがもう一度、晶の上に降りてくる。
「でも、あれって確か、女の子……」
反論しようとした声は今度こそ、吐息ごと鳴海にさらわれた。
──春が来るまでには、まだ時間がある。
もう少しうまく歩けるようになりたい、と言ったら、いまさら、と彼は笑うだろうか。
笑いながらも、隣を歩いてくれるだろうか。
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