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その間、ずっと頭の中にディヴィッドの顔があって、それにもまた絶望した。俺が泣く理由なんてどこにもないのに。なぜか目からは涙が溢れて止まらない。
手のひらに広がる白濁の青臭さに気持ちが悪くなって、でもそのくせ先ほどの情事を思い出してうっすらと反応しつつある自身の熱に呆れてしまう。
「くそっ……なんなんだよ……っ」
でも、後数週間したらディヴィッドはこの館からいなくなる。そうしたら俺も、当分顔を見ることはなくなるだろう。パブリック・スクールで戯れのような情事を知り、それらか婚約者を見つけ、結婚する。そうやって子孫を残していくのが彼の仕事だ。
俺はその手助けをするだけ。きっと俺のことなんて忘れる。だからもう、こんな風に傷ついたり泣いたりすることもないのだ。そうわかっているのに。
自分以外の手がその肌に触れることが嫌だった。自分以外の人を見つめることが嫌だった。自分以外が彼を抱くことが嫌だった。
こんなこと決して願ってはいけないのに。どうして俺は、ああ、どうして。こんなにも。
「好き、なんだろう」
こんな感情に気づきたくなかった。ただの勘違いであって欲しかった。そうしたらいくらでも笑い飛ばしたのに。
こんなの、もう、笑えない。
大きく吐き出したため息は、涙で重たく湿っていた。
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