88人が本棚に入れています
本棚に追加
豆腐屋は唸った。このお人好し連合じゃ何ともならん、と彼は口の中でひとしきりぶつくさ文句を言ったが、ややあって大きく息を吸う。何か言いかけたがやめて、まあいいや、それよりもだ、とひとりごちた。懐から折り畳んだ新聞を取り出し、ばさっと俺の手に渡す。
「これ、見てください」
夕刊の見出しには『少年探偵現る』の文字がある。
「あ、これか。学校で見たよ。内容はまだ見ていないけど」
「じゃあ、読むんですね。あんたのお友達の教えてくれた推理がそっくり載ってます。正真正銘、本邦初公開の内容ですよ。……大事なのはそこじゃない。日付を見てごらんなさい」
日付、……どういうことだろう。俺は小さな活字を目で追った。
「今日の日付……?」
「敵はあんたの近くにいますよ」
豆腐屋は俺の目をまともに見て言った。俺は豆腐屋の目を見返し、黙る。
(瑛二が一昨日教えてくれたのは『新聞に載ってた』推理だ。だけど、その推理が新聞に載ったのは今日。……順番が逆だ)
まだ新聞に載ってない推理を、なんで瑛二が知ってたんだ?
敵って?
俺は目がかすむのを感じて、目をこすった。
夜草と七花さんが眉をひそめて豆腐屋を見る。
「すみませんが、送ってさしあげてください。具合が悪そうです」
はいよ、と豆腐屋は俺の背中を押した。低く念を押す。
「学校ではくれぐれも言動に気をつけてください」
俺は彼の大八車へ転がりこんで言った。
「わかった……すまん、話は後で」
本当にわかりましたね、と豆腐屋はふたたび念を押し、大八車を引き出す。
俺はいつもより荒い運転に石ころのように揺さぶられ、薄暗い空を見上げる。
白い点のように星が光っている。
最初のコメントを投稿しよう!