第五章  挑戦状

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 手には渡された新聞を持ったままだった。それへ目をやって、放心したようにまた空に目を上げる。頭は混乱しているが、生贄の子供と宗八君を助けることをまず考えよう。  着きましたよ、と豆腐屋が大八車を止める。俺はよろめくように車から降りながら、大八車の中で出来上がった計画の手順を細かく彼に説明した。皆へ伝えるよう頼んで、寝室へたどりつくなり俺は倒れ込むように眠り込んだ。    ※    ※    ※  夜中に目が覚める。ひどくのどが渇いていた。洗面所に立って蛇口から直接水を飲み、口をぬぐってしばらくぼうっとした。  部屋に戻る前に、頭の中で夕方考えた計画をさらう。  ぺたぺたと足音がして、夜明け方の薄青い廊下に誰かやってくる。  無意識に顔を振り向けて、瑛二だと気づいた。瑛二もだまって水を飲んだ。肘までうっかり濡らしてしまって、腕を振っている。  俺は袂から手ぬぐいを出して渡そうとした。その拍子に、夜草(やそう)から貰った口紅が袂から落ち、硬い音を立てて廊下を転がる。  瑛二は腰をかがめてそれを拾って、無口に俺に渡した。 「ずいぶん艶っぽいものを持ってるね」 「あ、これは……その」 「誰の?」  瑛二はどこか咎めるような目で俺を見ていた。俺は自分で使ったとも言えず黙る。  ふと思いついた。あの探偵も紅をさしていたっけ。  瑛二に化粧をしたら、あの時の探偵に似ていないか?  じっと瑛二のくちびるを見つめると、瑛二は戸惑ったようにこちらを見返した。 「瑛二」 「なに……」 「ちょっとそこ動くな」  がしっと瑛二の肘をつかむと、瑛二は驚いた顔をする。引き寄せて顔を覗き込むと、瑛二はぎゅっと目をつむった。心なしかふるえていた。  そのくちびるに紅をさしていく。慣れないせいでゆがんでしまったところは親指でなぞってふきとった。 「な、何すんだ……!!」  瑛二はかっと赤くなって目を開け、抗議する。目になみだがたまっていた。  俺はつくづくと瑛二の顔に見入る。引き込まれるような大きな目、少女めいたあどけない頬の線。紅をひいたくちびるが暗がりで光った。
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