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(似ている……気がする)
俺は人の顔の覚えがいい方ではない。まともに顔を見たのは一瞬だから、確信はもてなかったけど、雰囲気は似ている。
目にかぶる髪の長さとか、きゃしゃな首の線。それからじっと人を見る澄んだ大きな目も……控えめに言ってそっくりじゃないか?
あの探偵が瑛二だとしたら?
それでわかる。警察も知りえないような商家の主人の性癖を知っていたことも、事件の最新情報を先回りして知っていたのも、新聞社が学校に取材に来ていたのも。
いや、本当はとっくの昔にわかっていたのかもしれない。
ただ、考えないようにしていたんだ。
ぼう然と瑛二の顔を見つめている俺に、瑛二は顔を赤らめて横を向き、眉を寄せると、乱暴にごしごしと手の甲で紅を拭いた。
一緒じゃないか。仕草まで、あの時と。
瑛二が手でふいたくらいでは紅は落ちず、俺は茫然としたまま手ぬぐいを差し出した。
瑛二は俺の手から布きれを奪い取り、ぐいと拭き取る。それを俺の手の中にぽいと投げ入れると背を向けた。
「馬鹿。早く寝ろ」
そう言い残した言葉がかすれていた。
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