第五章  挑戦状

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「円山君、警察の方がお見えだ。朝食前に舎務掛へ」  はい、と瑛二は口を厳しく引き結んで、きちんと頭を下げた。  校長と寮監が消えて点呼の列が崩れると、俺は人の群れを泳ぐようにして瑛二のところまでたどりつく。すでに興味本位の野次馬が何人か集まっていたが、瑛二はかまわず少しこわばった顔で笑って、もう歩き出すところだった。  こちらを見てうなずく彼に、俺は尋ねる。 「用件は何だろうな」 「さあ……何か新しいことでもわかったのかな」  言葉を濁して瑛二は前を向き、そのまま舎務掛に向かう。彼をいったん見送るふりだけして、俺は後をつけていく。  舎務掛は寮の入口の近くにある。玄関で室内から立ち聞きするか、外に出てせまい中庭に潜み、窓から覗くか……俺は後者を選んだ。  玄関から出ると目撃されそうなので、いつもなら外からこっそり帰舎するのに使う壊れ窓から外へ出て、舎務掛の外側まで移動する。  こっそり窓から覗いてみる。隅に寄せただけで留めていないカーテンの陰にうまい具合に隠れることができた。窓は開いている。  中には瑛二と警察官が二人いるだけだった。ホラ貝も席を外している。  瑛二は事務机の前で立っていた。緊張しているのか、らしくない硬い表情で尋ねる。 「いつもの方はどうなさったんですか」  サーベルを下げた警察官は座っていて、重々しい制服の威圧感を和らげるように、にこやかに答える。 「いつものというと、一等巡査の二見か。彼は今日はここには来ない。ワシは警部補の八神だ。次の標的はどこになるか、少年探偵の推理が聴きたいと思ってね、円山君」  俺は八神警部補の言葉を噛みしめた。少年探偵。やっぱりだ。  残っていた疑いは確実に消えた。瑛二が噂の『少年探偵』だった。牛乳配達のかたわら盗まれた鍵の謎を追い、怪盗団の標的を当てたのは、瑛二だったのだ。 「僕にはまだわかりません」  瑛二は唇をかむ。せっかちそうな八神警部補は小刻みにうなずいた。 「前回、君の推理が当たったのは素晴らしいが、まぐれ当たりということもある。記者共は騒ぎすぎだ。だがね、当の帝国怪盗団は君を好敵手と認めたらしいぞ」  警部補が差し出した白い封筒に、瑛二は戸惑ったように見える。 「何ですか?」 「挑戦状だよ、キミ」  重々しげに警部補が答えた。
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