第五章  挑戦状

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 瑛二は飛びつくように封筒を受け取ると、急いで封を開く。 「……マルヤマシニツグ アスハシゴトダ キミニサンジヲオクル ボクラハセイテンハクジツフトドキモノノカミヲヌスマン ボクヲトメテミタマエ……ハヌケノニイサンヨイイチニ」  読み終えて瑛二は眉をひそめ、こめかみを押える。 「明日? 不届き者どもの神とは? 僕らと書いたり僕と書いたり、主語に統一性がないですね。……ハヌケノニイサン……」  それから瑛二は凝然として何か考え込む。  警部補はふむ、とつまらなそうに瑛二の手から手紙を取り返し、紙面を眺めた。 「新聞の切り抜き文字だな。封筒の裏に帝国怪盗団と署名がある。不届き者の神ってのは、金の亡者の守り神、ってんで錠前のことかねぇ。しかしこれは多分、明日また事件を起こしますよ、場所を当ててごらんと言いたいんだろう。正直、我々としてはこんなイタズラじみた予告は無視したいところなんだが」  ではなぜ、警部補ともあろうお方がわざわざここへいらしたんです、とまるでうわのそらで瑛二はいう。忌々しそうにテーブルの上に挑戦状を叩きつけ、警部補は答えた。 「これと同じものが新聞社にも送りつけられておる。もう巡査に任せてはおけんよ。警察の威信がかかっているんだ」 「そのようですね」  ぼんやりした口調で瑛二にそう言われ、八神警部補は苦い顔になった。再び椅子にどっかりと腰かける。 「それでキミはこの挑戦を受けるんだろうね」  瑛二はその言葉が聞えていないかのようだった。のろく目を彷徨わせ、爪を噛んでいる。  警部補のわざとらしい咳払いに、彼ははっとしたように姿勢を糺す。 「失礼。手紙の文言が果たして本当にイタズラなのかどうか考えていました。先ほどの手紙を貸していただけますか」  手紙を受け取った瑛二は勝手に事務局の机に座りこむと、そのあたりにあった紙を手にして何か書きなぐり始めた。 「なんだねなんだね、何をしているのかね」  警部補は尋ねたが、瑛二は応えもせずうわ言のように何かつぶやいている。
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