第五章  挑戦状

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「やっぱりだ。間違いない……」  彼はややあって鉛筆を投げ出すと両手でこめかみを堅く押え、ぎゅっと顔をしかめた。 手元を覗き込んだ警部補に今さら気づいたようすで顔を上げる。 「……ああ、警部補。解けました」  八神警部補は丁度ポケットから出したばかりの煙草と燐寸を手にしたままぽかんとした。 「なんだって? 何が解けたんだね?」 「この手紙、いや、暗号文がです」  何故だかうかない顔で瑛二は言って、机に置いた挑戦状を指差すと、自分の書きなぐったメモと並べて解説を始める。 「文末、ハヌケノニイサンヨイイチニとあります。これ、全部数字に替えて読めるでしょう。8ぬけの2・3・4・1・1・2、とね。8ぬけとあるので、文章から最初の8文字を抜くんです。それから2文字残す。《アス》また8字抜いて、次は3字残す。《サンジ》。次の8字を抜けば後は4文字を残す、《セイテン》…こうして続けると残るのは《モ》《ン》《マエ》となります。これらの言葉を繋げて読んでみて下さい」  八神警部補は渋面を作ったが、訥々と瑛二の書いたメモを読み上げ始めた。 「えー……《アスサンジセイテンモンマエ》? 明日3時青天門前、か!?」  瑛二はあっさりとうなずく。 「青天門というのは確か烏丸通りにある裁判所の長官舎の門ですね。自分達の事をボクと書いたりボクラと書いたりするのは、恐らく文字数を調整するためです。でも挑戦状の中にわざわざ時間と場所まで書いておくなんて……一体を考えているんだろう」  瑛二は眉に皺を寄せて呟くが、警部補は興奮気味に立ち上がった。机上の挑戦状を掴む。 「さすがは少年探偵だ!! 早速明日はそこへはりこもう」  慌てたように瑛二がそれを引きとめる。 「待って下さい! これが本当かどうかどうしてわかります。捜査のかく乱が目的かもしれない」 「だとしても我々は困らんよ、探偵君」  警部補はサーベルをがちゃがちゃ鳴らしてドアへ歩き出しながら言った。 「どのみち手掛かりはないんだから。これは犯罪予告だ。怪盗団は相当の自信家とみた。捕まらない自信があるんだろうが、その自信が命取りだ」  それを聞いた瑛二は顔をゆがめ、しかし警部補はもう出て行った後だった。  瑛二は扉から顔をそらす。座ったまま、疲れたように頭を垂れた。  だがすぐに頭を振って立ち上がると、部屋を出ていく。
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