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途中で誰かに声をかけられていたようだが、恐らくホラ貝だと思う。俺はしゃがんだまま、ひそかに雪柳の茂みを離れた。
※ ※ ※
「警察はなんて?」
俺はごそごそと刺しかけの作品を箱にしまいながら尋ねる。手を伸ばして瑛二の机の棚へ箱をしまわせてもらうと、勉強室の机に座ってぼんやりそれを眺めていた瑛二が、うーん、と唸る。
「君の推理を聞きに来たのか?」
振り返って尋ねると、瑛二は無言で俺を見返した。俺はしかめつらになって言う。
「噂の少年探偵って、君だろ? 俺にまで隠すことないのに」
瑛二はしばらく固まっていたが、ややあってぎごちなく笑った。
「バレたか」
「バレいでか」
俺は淡々と答え、瑛二は目を落としてまあいいや、と独り言を言う。
「いつ気づいた?」
「警察が何度も君に話を聞こうとするのもおかしいけどさ。この間食堂で話してたの、新聞の記者だろ。とどめは、あの新聞……」
俺は言って、瑛二の顔をまともに見た。
「記事を手で隠しただろ? 君があの推理を話したのは3日前で、新聞にそれが載ったのは昨日の夕刊。君が話したのは『新聞に載ってた推理』なんかじゃなくて、『君の推理』だったんだ」
瑛二は机に頬杖をついてのろのろと言う。
「名推理だね」
「馬鹿にしてるな。なんで隠してたんだ」
「最初は誰にも言う気がなかったからね。推理が外れると恥ずかしいだろ? 警察や標的になりそうな家に通報こそしたものの、最初は警察も信じちゃくれなかったし。でも、予想外に騒ぎが大きくなったから、そろそろ君には話そうと思ってた頃合いなんだ」
瑛二はそう言いながら、机の上に見るともない視線を投げる。
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