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ファミリーレストランを出て、越知と別れると、進一郎は自宅への道をゆっくりと歩きだした。
まるで鉛でも詰まっているかのように心が重かった。
冬多の家庭環境や過去は、想像していたよりもはるかに痛ましかった。
耐えきれなかったんだ、と進一郎は思う。
だから、冬多は辛い過去を心の奥深くへ封印してしまった。それゆえ昔の記憶がほとんどない。
一方、幼い冬多が生み出したもう一つの人格のシゼンは、なにもかもを憶えている。
冬多のすべてを知り、冬多をずっと守ってきて、……冬多を愛している。
進一郎はやるせない気持ちだった。
……オレは冬多の恋人であるのと同時に、シゼンの恋敵でもあるんだ。
愛されているけれども、憎まれてもいる……。
オレたちはこれからどうなってしまうんだろう……?
冬多の悲惨な過去に胸を痛め、自らが置かれた複雑な立場に戸惑いを覚え、進一郎は重い溜息をついた。
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