愛する人の過去

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「冬多くんが小学五年生になった頃に父親の暴力はとまる。その時期、父親は会社のパーティーで知り合った女性と交際を始めたからで、今度は冬多くんには目もくれなくなった。そして冬多くんが六年生になったとき、父親はその女性と結婚する……それが今の継母だよ。  そのあとしばらくは、今、冬多くんが暮らしているマンションの4LDKタイプの部屋で三人で暮らしていたんだけど、冬多くんが中学へ入学したのを機に、彼を2LDKの部屋へ移し、一人暮らしさせている」 「え? 中学生に一人暮らしを?」 「ああ。あのマンションのオーナーは父親らしくて。だから、そういう無茶もできたんだろね」  越知の口調は淡々としていたが、内心ではかなり憤っているようだ。  リムレスのメガネの奥の瞳がいつになく険しい。  進一郎にいたっては怒りのあまり、血が凍り付いていくような感覚に襲われていた。 「冬多くんが中学二年のときに異母妹が生まれる。それを機に父親、継母、異母妹は隣町の一戸建てへ引っ越す。継母はもちろんのこと父親も、会いに来ることはおろか電話の一つもして来ない。生活費として充分以上のお金は振り込んでくるらしいけどね」
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