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顔を隠す理由
「…………」
いつしかファミリーレストランの喧騒が、進一郎の耳から遠ざかっていた。
唇をきつく噛みしめて激しい怒りに耐える。
冬多の父親も継母も親とは名ばかりの、人でなしである。
しばらくの重い沈黙のあと、越知が再び口を開いた。
「冬多くんはメガネと長い前髪で、過剰に顔を隠しているだろう?」
「……はい。オレといるときは、素顔を見せてくれますけど、でも異常なほど自分の顔を嫌っています。すごく整った綺麗な顔立ちをしてるのに……」
進一郎の言葉に越知は小さくうなずく。
「冬多くんはすごく母親似らしい。で、父親は、自分を裏切った元妻にそっくりな冬多くんの顔を嫌悪して、ことあるごとに罵倒していたみたいなんだ。小学校に入ったばかりの冬多くんに『お前の顔を見ていると不愉快になる』なんていう言葉を浴びせかけ、暴力をふるった」
「そんなひどいことを……」
進一郎は怒りを通り越して悲しくなった。
自己がまだちゃんと形成されていない幼い子供がそんなことを言われ続け、暴力を受け続けたら、自分の顔を厭うようになって当然だ。
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