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度の入っていないメガネと長い前髪で顔を隠す冬多。
いつだったか、彼が言っていた言葉を思い出す。
『だって、僕の顔を見ると、みんなが不愉快な気持ちになるから』
なんて残酷な仕打ちを受けてきたんだろう、冬多は……。
「幼い冬多くんが、暴力と言葉の虐待を受け続けて、シゼンくんという別人格を生み出したとしてもなんら不思議じゃない。むしろ自分の心を守るために必要だったんだと思う」
越知は長い溜息をつくと、すっかり冷めてしまったコーヒーに口をつけた。
進一郎も乾ききった喉をコーヒーで潤してから、聞いた。
「先生が今日、催眠療法をしていたとき、シゼンの人格は現れたんですか?」
「いや。人格の変化は見られなかったよ。シゼンくんの人格は今のところ、息をひそめて様子をうかがっているって感じかもしれないね」
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