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もう一つの人格の涙
進一郎が家に帰りついたときには、もう十一時半を回っていた。
冬多の声が聞きたかったが、時間が時間である。もう眠っているかもしれないと思い、メールで『おやすみ』とだけ送った。
シャワーを浴びてから、自分の部屋へ戻り、スマートホンを確かめたが、冬多からの返信メールは届いていない。
やはりもう眠ってしまったようだ。
進一郎もまた神経が疲れ切っていたので、髪を乾かすのもそこそこにベッドへ倒れこむ。
それでもなかなか眠気はやって来なかった。
どうしても冬多の過去やシゼンのことを考えてしまう。
眠れぬまま、進一郎が何度目かの寝返りを打ったとき、スマートホンが着信メロディを響かせた。
見ると、冬多からである。
進一郎は慌てて電話に出た。
「もしもし、冬多!?」
〈…………〉
だが、冬多はなにも言わない。
ザラリとした不安感が胸に込み上げてくる。
「冬多!? どうしたんだ? なにかあったのか!?」
〈ふざけたことしてんじゃねーよ、おまえ〉
「――――」
聞こえてきた声に進一郎は慄然とする。
まぎれもない冬多の声……だけど……冬多ではない。これは……。
「……シゼン?」
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