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〈ああ、そうだよ。なんのつもりだ? あんなやつに冬多の過去を探らせて。余計なことすんなよ……!〉
「シゼン……おまえは――」
進一郎は言葉に詰まった。
いったいなにを言えばいいのか。次にいうべき言葉が出てこない。
〈おまえら、冬多の中からオレを消そうとしてるわけ? 絶対にそんなことはさせないからな……!〉
「…………」
スマートホンを持つ進一郎の手にジワリと汗がにじむ。
〈あんたも聞いたんだから分かっただろ。オレと冬多はずっと昔からいっしょに生きてきたんだ。たった数か月前、冬多と親しくなったばかりのあんたとは違うんだよっ。二度と冬多に近づくな……!〉
シゼンはとがった声で言い捨てると、一方的に電話を切った。
すぐに電話をかけ直したが、既に電源が切られたあとだった。
進一郎はベッドから出ると、トレーナーとスエットの上から黒のロングコートを羽織り、スマートホンをポケットに入れる。
視界の隅にチラッと映ったデジタル時計が、AM00:37の数字を浮かび上がらせていた。
寝ている姉と両親を起こさないように気を付けながら、家を飛び出した。
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