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冬多の部屋は鍵がかかっていなかった。
進一郎が中へ入ると、真っ暗で静まり返っている。
……電話のあと冬多に戻り、眠ってしまったのだろうか?
そんなことを思いながら、ダイニングキッチンの電気のスイッチを入れる。
たちまち明るい光が降り注ぎ、進一郎は眩しさに目を瞬かせた。
廊下に出て、バスルームとトイレのほうを見てみたが、どちらも真っ暗である。
ダイニングへ戻り、リビングへ続く扉を開けると、
「冬多……!」
ダイニングから漏れる明かりと、ナイトライトの淡い光に照らされた彼が、ソファで膝を抱えてうずくまっていた。
長い前髪が顔を覆い、表情は分からないが、細い肩が小さく震えている。
泣いているみたいだった。
「冬多……、大丈夫か?」
進一郎は彼の傍へ行こうとしたが、
「うるさいっ! 近寄るんじゃねーよ!」
鋭く怒りに満ちた声に、拒絶されてしまう。
そこにいたのは、冬多ではなく、もう一つの人格、シゼンだった。
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