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「田舎貴族はいいね、時間の使い方が優雅でさ」  あからさまな侮蔑の言葉。ここでヴァレンタインに聞こえているということは、当時の彼にも聞こえていた。陰口を叩いたのは同級生、入学したばかりの一年生だ。  彼らの視線の先には、談話室にいくつか置かれたソファに腰かけて読書に耽る青年がいる。 「ふふ、少し若いか? 美しいな」 「前回よりマシなのは確かですが……」  四年前の自分なら、まだいくらか落ち着いている。陰口は聞こえていたが、顔を上げることはなかった。しかし今聞いても「田舎貴族」など、悲しいほどの無知か負け惜しみ。  入学してしばらく、ヴァレンタインは孤立していた。敬遠されていたと言った方が正しい。聡明な者は「シェリンガム」の名を崇敬し、取るに足らぬ者はヴァレンタインの美と才に嫉妬をした。  嫉妬、という感情に疎かった青年は、まさに今この瞬間も、困惑している最中だった。  椅子に座って、本を読んでいるだけ。出された課題ならもう済ませた。何を咎められることがあるのか。真剣に思い悩むことで出来た眉間の皺に、傍から見るヴァレンタインは思わず笑う。あれでは近寄り難い。過去の自分が他者からの視線の真意を知るのは、もう少し後の話。     
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