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 ヴァレンタインは辿り着いた自室のドアを閉めながら、何度も心の中でそう繰り返した。ドアに額を押し当てて、ゆっくりと呼吸をする。瞼の裏に浮かぶのは父の姿ではなく、先刻接触した、コーツベルグ卿、レグナー。  コーツベルグの領地はシェリンガムの西隣だ。もっと西へと追いやられた反抗的な異民族とは違い、帝国に与することで爵位と領地を手に入れた家。しかし、血を異にしていることに違いはない。先代シェリンガム卿はレグナーと親しくしていたが、それは偏に彼の政治手腕によるものだ。彼は無益な争いと、過剰な圧力を嫌った。東方の異民族と手を取り合おうとしていた。視察を重ね、屋敷に招き、何度も言葉を交わし合って。しかし、それがどれほど異民族たちの心を解し傾け染め上げたのか、それは誰にも分からない。脅威は脅威としていまだにある。  コーツベルグは背後の異民族たちを束ね、一気に帝都に攻め入る準備ができる。 (この地は、盤石でなくてはならない……)  有事の際、それを食い止めるのは、この地、シェリンガムの責務。  ヴァレンタインはドアから額を離した。気も随分と落ち着いた。これからやるべきことを頭で思い描き、拳を握りしめる。肩から落ちてきていた長い髪を後ろへ払い、とにかく今は心身を休めて明日へ備えようと思って。  振り返った。 「――やあ、美しい人」  息が止まるほどに驚いた。     
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