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 高貴にして、美麗。最上級の筆を走らせたとしても、彼の美貌は描けまい。  言いようもない気が込められた目尻に、薄いが瑞々しい桜色の唇。髪の一筋一筋には金や銀が織り込まれているのではないかと思うほど、何より気高く輝くプラチナブロンド。その最上の織物は、緩く弧を描きながら彼の腰にまで達し、一つ歩むごとに不可視の輝きを振り撒いている。 瞳の色は、誰もが望む、深い青。それは彼の血を透かしているのだと、事あるごとに称される。高貴な生まれ。帝都の名門大学に首席で通う、「期待通りの」才能。他を隔絶する美貌。  名を、ヴァレンタイン。  出自から望まれるままの姿を振る舞う彼は、葬列に参加した人間たち一人ずつに挨拶をして回った。特に父と親交が深かった者、それから、多大な権力と発言力を持つ男たちには、念入りに。悲し気に伏せられた彼らの視線が時折、自分の顔や身体つきを厭らしく眺めていることに気付きながら。  悲しみを装う人間たちが詰め寄せたホールを長い脚で歩いて回り、やがて時計の針が進むにつれて、一人、また一人と、立ち去って行く。     
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