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 数人、今日はこの屋敷に宿泊したいと申し出る者がいた。その度に、あなた様のお屋敷は遠い、今からお帰りになられては夜道を行くことになるでしょう、どうぞゲストルームをお使いください、今、用意をさせますので……、と。青年、ヴァレンタインは微笑みとともに頷いた。  秀麗な笑みと、相応に物憂げな雰囲気を保ちながら。  ヴァレンタインはここに集った男たちを注意深く、冷静に観察していた。表層と腹の内の乖離。それはヴァレンタインだけではなく、今日ここに、父の死に群がった者たちの中の誰かも。  本当に父の死を悼んでくれる者、社交の一環として足を運んだ無害な連中、そして……。  夕焼けさえ美しく空を染め上げる穏やかな日は、死の香りに包まれる。  時計の針が夜の半ばを指す頃に、ホールはようやく空になった。  ヴァレンタインは誰にも気づかれないように、細く、溜め息を吐いた。すぐに入って来た執事に顔色の悪さを指摘され、今日はもう休むので大丈夫です、客人のお世話はよろしくお願いします、それだけ言い残してその場を立ち去る。彼は言葉通りに自室に向かった。数時間前から酷い頭痛がしていた。気分も悪かった。足元は地面を見失ったような感覚が続いていた。  彼の父、そして今は彼自身である、「シェリンガム卿」の死。  それはこの国、――栄華を極める大帝国、「ハイ・オレイユ」では酷く重い意味を持つ。     
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