1-1

5/17
310人が本棚に入れています
本棚に追加
/261ページ
 彼のことは十分に知っている。ヴァレンタインが継ぐこのシェリンガムの地の西方、コーツベルグを治める領主。名は、レグナー。もちろん先代シェリンガム卿とも親交があった。ヴァレンタインは全て知っていた。これからは自分が、その親交を引き継がなければならないことも。  レグナーは穏やかな表情を浮かべてみせていた。 「君のお父上は私のことをレグナーと呼んでいた。君もそう呼んでくれ。しかしそれより、随分と具合が悪そうだ。いや、それも仕方がないだろうが……」 「いえ、ご心配には及びません。少し眠れば良くなりますので。……見苦しいところをお見せしてしまって、すみません」  ゆるりと、それでいてはっきりと首を横に振ったヴァレンタインに、男は少し驚いたような顔をした。しかしそれも一瞬で、彼はまた柔和な笑みを口元で描く。 「構わないよ。君がこれから負うべき重圧を考えれば当然のことだ。君はまだ二十一、この地の領主を継ぐには若すぎる……。君のお父上でさえ、爵位を継いだのは二十六歳の頃だろう。ああ、私の悪い癖で長話をしてしまいそうだ。君はゆっくりと休むのがいい。しかし本当に、足がふらついているようだよ。部屋まで付き添おう。さあ」  腕が、伸ばされる。  ヴァレンタインは一歩、後ろへ下がりたかった。触れさせてはいけない、お前は一人で立たなければいけない、と頭の中で自分に向けられた警鐘が鳴り響く。それは耳鳴りとなって、余計にヴァレンタインの自由を奪う。     
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!