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 キトン山脈とは違い、西への陸路は踏破困難なほどに険しい「テオリオ山脈」で隔てられている。この山脈の名に由来して「西テオリオ」と呼ばれる帝国西部の地域。  そこに居座るのは、帝国が武力によって服従させた異民族たちである。  彼らが従順に帝国の一部に甘んじている、というのは一部の世間知らずたちの妄信だった。多くの者が西を強く警戒している。いつか反乱を起こすのではないか、と。その時には、西の異民族たちはテオリオ山脈を越える術を知っている。それに加えて、彼らが真っ直ぐ東へ進軍した場合、行き当たる内海。  その対岸は、帝都オレイユなのだ。  船を操れば簡単に越えることができる小さな内海だ。当然、帝都は防衛策を立てている。  帝都の対岸、西テオリオの東端。そこに優秀な騎士団と領主を置いた。西テオリオ内には幾つかの総督府が設置されているが、この「眼前に敵、背に帝都」という役目を負った地の領主こそが統括者であり、最終的な防衛線。  その地の名は、「シェリンガム」。  先祖からの防衛能力、そして今日まで二十年の平和を保った名領主の訃報は、今、帝国中を駆け巡っている。 (父様の死を隙にしてはいけない……この地は盤石でなくてはならない……)     
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