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 悲しいことが起こるには、あまりに穏やかな春の日和だった。  その日、一人の男が死んだ。名をシェリンガム卿、ウィンストン。先祖より侯爵の位を引き継ぎ、責務を果たし、世間が求めた貴族の理想を体現したような人生を送った男だった。敵も味方も相応に抱え、これからは歳を重ねるごとに偉大になっていくことを運命づけられた、優秀な血。  享年、四十六歳。  彼は二十五の時分に作った一人息子を残し、その日、息を引き取った。  早すぎる死を悼むすすり泣きばかりが響いた陰鬱な葬式が、夕刻を過ぎてからようやく終わった。埋葬は昼の内に済んでいたのだが、その後の追悼会が長かった。参列者が故人の屋敷に集まり口々に、男の若すぎる死や、その死による大いなる損失を嘆いていたのである。爵位持ち、新興の成金階級、または故人と同じ学校の出であるという男まで、様々な人間が眉を顰めて囁き合った。嗚呼、お労しや、シェリンガム卿!  その芝居めいた口上を聞き続けるのは、シェリンガム卿――今やそう呼ばれるに相応しい、故人の一人息子。嫡男であり、後継者。  今年で二十一になる、うら若き白皙の青年である。     
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