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――出立は二週間後です。
ヴァレンタインはそう言い残し、二人の騎士を置いて食堂を出た。真っ直ぐに向かったのは、自室。二人が追ってくる様子はない。きっと今頃、頭を抱えているのだろうな、とヴァレンタインは予想した。申し訳ないことをしたとは思っている。
クレオンジュはシェリンガムに、いや、ヴァレンタインに忠誠を誓った。主を守るためならその命さえ惜しみなくなげうつだろう。それはアルマーティアの血を引く彼の名において。
騎士の忠誠は、主への崇敬。
主の命令ならば何でも従う使用人や奴隷のような関係ではない。
(失望されるなら、それも運命……)
ヴァレンタインは、清廉で正直な騎士の顔を思い浮かべながら、自室のドアを開けた。
そこにいる存在を知りながら。
「浮かない顔だな、美しいお前。親しい者と、仲違いでもしてきたか?」
今宵も物好きな悪魔は、ベッドに腰かけて笑っている。
後ろ手にドアを閉め、施錠までしたヴァレンタインは、ベスの顔を見て静かに溜め息を零した。悩ましい吐息に誘われた立ち上がったベスは滑るように青年の傍へと動き、優しい抱擁を与える。
「どうした。憂い顔も似合うな」
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