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病室の窓から、男の子は外を眺めていました。公園の木々はもうすっかり葉を落とし、冷たい風が落ち葉を躍らせています。
「ねえ、お母さん」
そばに立っている母親に、男の子はベッドの中から弱々しい声で語りかけました。
「早く春になるといいな。僕、またこの公園がお花で一杯になるのが見てみたいんだ」
お母さんはその言葉に何も言えませんでした。
実は、男の子は今の医学では治らない病にかかっていました。病状は悪く、お医者様からは今年の冬はもう越えられないと言われていたのです。
「そうね、早く暖かくなって花が咲くといいわね」
お母さんは、そう言うのがやっとでした。
男の子の願いは、いつの間にか小さな町中に広がっていました。
「あの子はもう長くないのか。かわいそうになあ」
人々は小声でそう囁きあいました。
「彼に、もう一度お花を見せてあげましょう!」
あるおばさんの呼びかけで、町の人々はサプライズの準備を始めました。
赤、青、白、黄色……様々な色の薄紙で、小さな花をいくつもつくり出したのです! 中には、ガラスや宝石でできた物もありました。もちろん、少しでも本物らしく見せるため、小さな葉っぱも作りました。
作業場になった公民館には、土日に大勢の人が集まりました。いえ、いつ男の子が死んでしまうかも知れません。仕事を休める者は仕事を後回しにしてまでも男の子を喜ばせるために紙を切り、糊で貼って花を作ったのです。
そして、ある日の夜、村の人々はできあがったすべての花を花壇に、公園の枝に、家々の壁にこっそりと飾り付けていきました。
「わあ……」
朝、看護婦さんがカーテンを開けた時、外の光景を見て男の子は思わず声を上げていました。
様々な色の花々が、町中にあふれていました。朝の風に花びらが舞い、まるで祭りの紙ふぶきのようです。ビーズや宝石の花は、するどいほどの輝きを放ちます。冬の寒々とした白い空の下で、その町だけは画家のパレットのようにたくさんの色に満ち溢れていたのでした。
「おーい!」
町の人々が公園に並び、手を少年に振っていました。
「すごい、すごい、すごいよう」
男の子はびっくりしてそう叫ぶと、少し咳をしました。
人々の上げた声と宝石の花の輝きに、空を散歩していた神様は興味をひかれました。
「おや、なんだろう」
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