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 いつものカフェで、いつものようにベーグルを頼んで、でもいつもとは違う要人が優希に一枚の紙をよこしてきた。  そう、僕と要人は恋人同士になった(『息』参照)。  以前のようにカフェでベーグルをパクつくことは変わらないが、要人は、より複雑な表情を見せるようになった。  やたらとはしゃいで見せたり、かと思えば急に黙って熱い視線を投げかけてみたり。  優希はと言えば、特定の人間と深く付き合うなどこれまで経験したことがないので、何も考えずにただそんな要人を受け止めていた。  時に穏やかにそれを見守り、時にどきりとして視線を逸らしてみたり。  そして今回要人は、身を乗り出して明るく、でも声をややひそめて一枚の紙を優希によこしてきた。それは、10月の暦だった。 「な、優希。明後日から学校3連休だろ? だから明日、俺の実家に泊まりに来ないか?」 「実家に?」  エスカレーター式の学園に通っているので、小学生の頃から要人の寮へ泊まったことは何度でもある。だが、今回は実家に泊まりに来いというのか。  要人の実家はいわゆる名家で、広い敷地に時代がかった豪邸がどんと構えている。  だが、滅多なことでは子どもは自分の家に友達を招いたりはできない。大人の社交場でもある邸宅に、騒がしい子どもは敬遠されていた。  優希は毛並の良い大人しい子どもだったので、何回かはその豪邸にお邪魔した事がある。随分広い要人の部屋に、驚いた記憶がよみがえってきた。  そして勘のいい優希には、ピンときた。これは、今まで付き合ってきた女たちとは別枠で自分を想っている、ということを示すための行動だ。  君は、君だけは特別。  そんな要人の心の声が、はっきり聞こえてきそうだ。
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