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 美しく花で彩られた食卓と、磨きあげられた銀のカトラリーを前に、優希は要人と二人向かい合っていた。 「じゃあ、まずは乾杯♪」 「ちょっと待て。飲酒はあと3年経たないと……」 「食前酒だよ。ほんの少しだけ。いいだろ?」  髭の次は酒か。要人、僕を置いてどんどん大人になろうとしているのだな。  それでも要人の呼んだソムリエが注いでくれたワインは、美味しかった。すっきりとした口当たりだが、渋みが充分に感じられるしっかりした味わい。ワインに詳しくはないが、相当いいものなのだろう。  運ばれてくる料理も、どれも素晴らしかった。飽きの来ない味付けとソース。そして、適度な満腹感。考え抜いて組み立てられたコースだということが、よく解かる。 「要人の家のシェフは、大したものだな」 「そうか? ありがとう」  本当なら『優希と一緒ならどんな料理だって美味しい』と言いたい要人だったが、周囲に使用人が控えているのでそこはぐっと我慢した。  食後、要人は優希に湯殿と客間を案内した。 「ゆっくりくつろいできてくれ」  そう言われて通された大理石の湯殿はとても広く、ところどころにグリーンが飾ってある。すでに蒸気で充分に温められていたので、優希は寒い思いをせずに湯を使うことができた。  本当に、要人の言うとおり心からリラックスして手で湯船の湯をすくうと、なめらかでしっとりとしている。保湿力の高い湯なのだろう。湯上りには、肌がすべすべになるに違いない。 「もしかして、温泉の湯を引いてくれてるのかな」  湯上りの優希は、細やかな気配りをもって自分をもてなしてくれる要人に、心から感じ入り感謝していた。  食事に風呂と、これだけの心遣いをしてくれているのだ。客間もさぞや素晴らしいのだろう。そう考えつつ、ドアを開けた。
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