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 ピアノの発表会に出る羽目になってしまった。今年は大学受験を前にしているのだ。勉強も忙しくなったから、今の課題曲が仕上がったらレッスンはしばらく休みにするつもりでいたのだが、幼馴染の素子(もとこ)に、発表会が終わってからレッスンを休みにしたら、と引き留められたのだ。 「そりゃあ、素子は音大を目指してるからいいけど。私は普通の受験生なんだよ」 「まあまあ。私がフォローするからさ。連弾だけでもいいじゃない」  二人のやり取りを聞いていたピアノ講師、幸子(さちこ)が、すっかり乗り気になってしまって、発表会に参加せざるを得なくなってしまった。 「素子ちゃん、いい考えね。恵里佳(えりか)ちゃん、それでいきましょう」  近所にある小さなピアノ教室だが、ピアノ科を卒業し今も研鑽を欠かさない幸子は、熱心な指導者だ。コンペティションの入賞をめざしている素子の様な本気の生徒も何人かいるし、予選を勝ち抜く子供達も何人かいる。レッスン内容は素人相手でも手を抜かないのが幸子のいい所、なのかもしれない。     
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