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あれ、これって何? 演奏を終えた恵里佳は目をぱちくりさせた。素子が笑いかけた。
「いいんじゃない? 本番もその調子でね」
あっという間に本番当日だ。恵里佳の気持ちを代弁するかのように、朝から雨がしょぼしょぼと降っていた。ただでさえ癖の強い髪が好き放題にうねってセットが決まらない。先生から貸してもらったドレスを着て、恰好だけはピアニストだ。
「なんか、ドキドキしてきた」
恵里佳は自分の胸を両手で抱え込んだ。
「大丈夫。私がついてるから」
大きく背中の開いた自前のドレスを着た素子は余裕の笑みを浮かべると、恵里佳の背中をあやす様にトントンと叩いた。
ダンスを踊るような気持ちで。相手の音をよく聞いて。幸子の言葉を思い出して深呼吸をする。
「いくよ、恵里佳」
舞台の真ん中に、スポットライトを浴びたフルコンサートのスタインウェイが鎮座している。あそこでピアノを弾くのだ、と思うと緊張で眩暈がしそうだ。
舞台袖で素子は恵里佳の両手を握り、ついでのように恵里佳の頬にキスをした。目が笑っている。
「晴れ舞台よ。楽しもう!」
「うん」
喉がカラカラになった恵里佳はかすれた声でようやく返事をした。
いよいよ演奏が始まった。
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