白と桜

33/33
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
「…漸く来たようだね」 バエルが消えて暫く、私の隣にいるキルトさんが待ち侘びたかの様に呟いた。見ると兵団が近付いて来ていた。 「キルトさんの兵達ですか?」 私の問いにキルトさんは笑顔で頷いて兵団の元に向かっていく。こ、これが竜機隊隊長の色気…!まぁ、月人くんが一番ですけどね。 キルトさんの指示で兵達が散り散りに動く。怪我人の救助、壊れた馬車の撤去など…。 そして、遺体の回収…。バエルとの戦いに集中していて気付かなかったけど…人が亡くなってるんだ。 だから、アイシャはずっと祈ってる。目を瞑り、両手を絡め、祈りを捧げているんだ…。 「バネサ…」 キルトさん…知り合いだろうか?肩をバッサリと斬られた女性に悲しみの目を向けて…。 「彼女はバネサ。キルトとは同期なんです」 アイシャが教えてくれた。目を瞑ったまま、祈りを捧げたままで。 「バネサはいつも言ってました。同期のキルトが誇りだって。だから、私も負けられないって。雷魔法が得意という共通もあって仲が良かったんです…」 そうなんだ…。 「バネサ、姫を守ってくれてありがとう。君は私達同期の誇りだ。安らかに、眠ってくれ」 そう言ってキルトさんはバネサさんの頭を優しく撫でる。心無しか…彼女が笑ってる様に見えた…。 戦いは、終わった。バエルは消え、仲間は…沢山死んだ。大怪我を負った者もいた。 「帰りましょう、私達の国に」 それでも、アイシャは前を向いていた。とても、かっこ良かった。 「帰りましょう、皆と共に…」 でも、私は見てしまった。日が暮れ、暗くなったこの場でも…。 アイシャの瞳から涙がこぼれ落ちたのがはっきりと見えた。手が震えているのも確かに見えた。 強いな、と思った。私と同年代の女の子なのに…一国の姫だからと…誰よりも前を向いて、気丈に振る舞っていた。 だから、私は…そんな彼女の傍にいたくて…。 その日は王国に帰るまで、馬車内ではアイシャの傍に居た。隣で眠る彼女の悲しそうな横顔を見て…。 改めて、私は異世界にいる事を思い知らされた。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!