10人が本棚に入れています
本棚に追加
端緒
僕、青木祐介はこの『物語』の語り部であり、チーム内では書記という立場にある。
チームの人員は三名――冒険家であり、そしてリーダーである長嶋秀喜、助手兼メイドのニナ・キューブリック、書記の僕――僕達三人は、冒険の為の名も無きチームだ。
ある世界に存在する『物語』の好事家、ガンプ・ボルジアーニ侯の命により、『異世界』へ渡って冒険することが僕達三人の生業であり、つまり『異世界』で体験した『物語』を記録すること、これが書記たる僕の役割である。
ボルジアーニ侯は僕の記録を読み『物語』を蒐集することを生き甲斐のようにしている人物なのだが、彼については多く語るまい――彼を語ろうと思えば彼に対しての『観測』が必要であり、本人は決してそれを望まないのだ。「私は読者なのだから」と、彼ならば、そんな風に言うことだろう。
そう、『異世界は観測されることによって物語となる』――これはボルジアーニ侯の受け売りだけれど、どうやらそうらしい。まるで自然科学における観測者効果のようと僕は感じている――『異世界』というシュレディンガーの猫は、僕達という登場人物の闖入によって状態を変化させ、『生きる物語』としてか、はたまた『死んだ物語』としてか、ともあれ『観測』され、僕によって記録されるのだ。
つまり記録とは、僕達三人の冒険の記録であり、僕達三人が覗くことによって物語と化した異世界の記録、ボルジアーニ候にとっては、蒐集対象の冒険譚――である。
前述の言葉を再利用するなら、今回の冒険は『死んだ物語』か――いいや、明るい見方をするなら『復活の物語』かもしれない。少なくとも――決して『生きる物語』ではなかったと思う。
さて――
今回僕達は、広大な砂漠の世界の中心で、巨大な都市と出会った。
都市は間もなく、命尽きようとしていた――
最初のコメントを投稿しよう!